レジュメ:自閉症者の雇用プロファイル:8年間の縦断研究

Bury, S. M., Hedley, D., Uljarević, M., Li, X., Stokes, M. A., & Begeer, S. (2024). Employment profiles of autistic people: An 8-year longitudinal study. Autism, 13623613231225798.
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/13623613231225798

概要 (Abstract)
自閉症の成人は高い失業率に直面しているが、雇用成功を予測する要因に関する研究は一貫した結果を示していない。本研究では、縦断的な「個人志向」(person-oriented) の分析手法を用いて、自閉症の成人の雇用軌跡を特定し、安定した雇用を予測する要因を理解することを目的とした。

方法:
オランダ自閉症登録 (Netherlands Autism Register, NAR) を通じて2449人の自閉症成人 (男性1077人、女性1352人、ノンバイナリー20人、平均年齢42.25歳) を対象に、8年間にわたる雇用状況を追跡した。潜在クラス分析 (Latent Class Analysis, LCA) により、雇用ステータスの変化に基づくプロファイルを特定した。

結果:
最適なモデルとして4つの雇用プロファイルが同定された。
1. 一貫して失業 (1189人)
2. 安定した雇用 (801人)
3. 初期の失業から雇用への移行 (183人)
4. 初期の雇用から失業への移行 (134人)

多項ロジスティック分析により、安定した雇用群の特徴として、以下の要因が有意に関与していることが示された:
• 自閉症特性が少ない
• 年齢が若い
• 男性である
• 高学歴
• 診断年齢が高い
• 併存疾患が少ない

さらに、高学歴は雇用が変化する2つのプロファイルのどちらにも関連しており、年齢が若く併存疾患が少ないことが「雇用増加群」への所属を予測した。

結論:
本研究は、自閉症成人の雇用維持に関する縦断的な課題を明らかにし、重要な支援領域を特定した。特に、女性や併存疾患を持つ人々に対する雇用支援の必要性が示唆された。

導入 (Introduction)
 自閉症の人々は世界的に見ても雇用率が低い。例えば、自閉症成人の雇用率は、オーストラリア (27.3%)、イスラエル (28%)、イギリス (29%)、アメリカ・カナダ (14%) など、どの国でも低い傾向がある (Australian Bureau of Statistics, 2019; Beenstock et al., 2020; Office for National Statistics, 2022; Roux et al., 2017; Zwicker et al., 2017)。また、雇用されている場合でも、低賃金や過少雇用の問題がある (Cimera & Cowan, 2009)。

これまでの研究では、雇用に影響を与える要因について多くの調査が行われてきたが、その結果は一貫性に欠ける。特に、多くの研究が「変数志向」(variable-oriented) の分析を採用しており、全体的な傾向を把握するのには適しているものの、自閉症者の多様な雇用経験を適切に捉えられていない可能性がある。本研究では、「個人志向」(person-oriented) のアプローチを用いて、自閉症成人の雇用プロファイルを特定し、それぞれのプロファイルに関連する要因を明らかにすることを目的とする。

方法 (Method)
参加者
• NARを通じて2449人の自閉症成人を対象に調査。
• 年齢平均: 42.25歳 (SD = 14.24)
• 性別内訳: 男性 (1077人)、女性 (1352人)、ノンバイナリー (20人)
• 診断年齢平均: 33.44歳 (SD = 15.93)

調査手法
• 2013年~2021年の8年間にわたる縦断データを分析。
• 雇用ステータス: 競争的雇用 (正社員・自営業など) の有無
• 解析手法: 潜在クラス分析 (LCA) を用いて、雇用の軌跡を分類。

測定変数
1. 自閉症特性: AQ-Short (Hoekstra et al., 2011)
2. 性別: 男性/女性 (ノンバイナリーは統計的パワーの都合で除外)
3. 学歴: 低・中 (小中高) / 高 (大学・専門職)
4. 診断年齢: 自閉症診断を受けた年齢
5. 併存疾患: ある/なし
6. 居住地の都市化レベル: 1 (非常に都市部)~5 (非都市部)

結果 (Results)
雇用プロファイルの特定
• LCAにより、4つの雇用パターンが抽出された。
1. 一貫して失業 (48.5%)
2. 安定した雇用 (34.7%)
3. 雇用増加 (7.9%)
4. 雇用減少 (5.8%)

プロファイルの特徴
• 安定した雇用 (34.7%) → 若年、男性、高学歴、診断年齢が高い、併存疾患なし
• 雇用増加 (7.9%) → 若年、高学歴、併存疾患なし
• 雇用減少 (5.8%) → 学歴が高いが、その他の予測因子なし
• 一貫して失業 (48.5%) → 最も人数が多い

一貫して失業 (stable unemployment調査期間の8年間を通じて一貫して雇用されていない状態が続いた人=全体の 48.5%1189人) グループの特徴
• 就労経験がほとんどない、またはまったくない
• 高学歴の割合が低い
• 自閉症特性 (Autism traits) が多い
• 併存疾患を持つ割合が高い
• 女性の割合が比較的高い
• 年齢がやや高め (ただし、統計的に大きな差はない)

この結果は、自閉症成人の多くが長期間にわたって雇用にアクセスできない または仕事を得る機会が極端に限られている ことを示唆しており、支援の必要性が高い層であると考えられる。

考察 (Discussion)
• 高学歴は雇用獲得の最大の要因であり、特に安定した雇用群と雇用増加群で顕著。
• 併存疾患の有無は雇用の安定性に影響を与える。
• 男性は雇用の安定性が高く、女性は安定雇用群に少ない。
• 自閉症特性が少ないほど、雇用安定性が高い。

結論
• 女性や併存疾患を持つ人への支援が不可欠
• 教育機会を充実させることが雇用改善の鍵

メモ
この結果を見ると、本当に社会的な要因によって生活が決まってしまうんだなと思う。この社会的要因の改善にアクセスできないとダメなんだろう。

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