レジュメ:障害者の労働市場への参加がもたらす経済効果
Beyer, S. (2017). Economic impact of inclusion of disabled persons in the labour market. Éditions universitaires européennes.
https://www.base-uk.org/knowledge/economic-impact-inclusion-disabled-persons-labour-market
- EUにおけるインクルーシブ雇用政策の背景
1.1 アクティブ・レイバーマーケット・プログラム(ALMPs)
障害を持つ人々は、主流(メインストリーム)および専門的なアクティブ・レイバーマーケット・プログラム(Active Labour Market Programmes, ALMPs)の両方の対象となってきた。メインストリームのALMPの観点から、経済協力開発機構(OECD)は、多くの国が「ワーク・ファースト(Work-First)」アプローチを広く活用し、2000年代初頭に失業者の就労を促進してきたことを示している(OECD, 2010)。
このアプローチでは、求職者に対して、ジョブサーチ(職探し)、トレーニング、雇用プログラムなどの再就職支援を提供する「アクティベーション/相互義務」戦略が採用されている。これらの施策は、求職活動を怠ると給付金の支給を停止する制裁措置を伴うことが特徴である。特に不況時には、ジョブサーチ支援が重要になる。なぜなら、一部の企業では新しい雇用が創出されており、雇用支援サービスが適切な人材を迅速に配置することができるためである。
このようなアクティベーション・アプローチには、以下の要素が含まれる。
• 強制的な求職登録
• 集中的な面談
• 個別の行動計画
• 求職活動の証明
• 就職支援(National Institute for Adult Continuing Education, 2012; Bolton & O’Neill, 2002)
ワーク・ファースト・アプローチは、一定の雇用成果をもたらしてきた。しかし、求職支援のみでは、必要なスキルを持たない人々や、生産性が低いとされる人々の就職には不十分な場合がある。特に、知的障害、重度の精神社会的障害(psychosocial disabilities)、自閉症など、より複雑な障害を持つ人々には十分な効果が得られにくいのが実情だ。そのため、これらの人々を支援するために専門的なALMPが用意されている(Thornton & Lunt, 1997; IM Business and Policy Research, 2002)。
専門的ALMPには以下の種類がある:
• 集中的なカウンセリングと求職支援:障害者向けの個別カウンセリングを提供し、就職活動を支援するプログラム
• 職業リハビリテーション:職業指導や訓練を提供し、適切な職に就き、維持し、キャリアアップを図るための支援
• 補助金付き雇用:障害者の雇用を部分的に補助するプログラム
• 支援付き雇用:職場での適応を支援するジョブコーチを提供するプログラム
• シェルター雇用(保護雇用):障害者を主に雇用する特別に組織された職場(詳細はセクション4.4を参照)
• 障害者による起業支援:障害者が自らビジネスを開始するための助成金や支援策(例:社会的企業、社会的事業、協同組合)
• 複合的措置:いくつかの手法を組み合わせたプログラム
1.2 障害者向けアクティブ・レイバーマーケット・プログラム(ALMPs)の課題
資格取得や職業訓練の観点から見ると、障害を持つ若者は依然として正式な資格をほとんど、あるいは全く持たずに学校を卒業する傾向がある。また、職業教育・訓練(Vocational Education and Training, VET)においても、成人継続教育(Adult Continuing Education)や職業訓練の機会を自ら管理する能力や動機に欠けることが多いとされている。そのため、障害を持つ若者は、公的セクターの政策に大きく依存しており、支援付きの選択肢を提供してもらわなければスキルを向上させる機会や有給雇用の可能性を高めることが難しい状況にある。
それにもかかわらず、障害を持つ若者は、職業訓練の機会を利用する可能性が低く、特に学校卒業後の教育(ポストスクール・エデュケーション)へのアクセスが制限されている。例えば、Papworth Trust(2013) は、英国において知的障害を持つ人々のうち、何らかの教育や訓練に参加しているのは3分の1以下であると推定している。また、Downsley et al.(2014) の研究では、ウェールズのワークベースVETプロバイダーのうち、50%が自閉症スペクトラム(ASD)のある人々と連携しているものの、その中で若年層のASDを持つ人々と自信を持って取り組んでいるプロバイダーは37%に過ぎないことが報告されている。
さらに、障害を持つ若者は、適切な成人教育およびVETプログラムへのアクセスにおいて著しく不利な立場にある。彼らは、「教育・雇用・訓練のいずれにも属さない若者(Not in Education, Employment or Training, NEETs)」のカテゴリーに高い割合で含まれている。特に、発達障害や学習障害を持つ若者は、NEETの中でもさらに多くを占める傾向にある。
2. 研究方法(Study Methodology)
2.1 研究の目的(Aims of the Study)
本研究の目的は、EUにおけるインクルーシブ雇用政策の費用と便益を評価し、特に障害者を対象とした雇用モデルの経済的影響を分析することにある。具体的には、以下の点に焦点を当てている。
• 障害者雇用モデルの費用対効果:既存の支援付き雇用プログラム(Supported Employment Programmes)、個別就職支援(Individual Placement and Support, IPS)、職業訓練プログラム(Vocational Training Programmes)などの財務的コストと成果の分析。
• 雇用者の視点:障害者の採用と職場での支援に関する企業の経験、メリット、コスト負担の分析。
• 税制と経済への影響:障害者雇用に関する政府支出、社会保障費、税収の変化を評価し、税金を支払う労働者としての障害者の貢献を算出する。
• 公的政策の影響:政府や自治体が採用している障害者雇用政策の実効性の検証。
本研究は、政策立案者、雇用主、および障害者支援団体に向けて、雇用の包摂性を高めるためのエビデンスを提供することを目的とする。
2.2 文献調査(Literature Search)
本研究では、障害者雇用の費用対効果に関する過去の研究、政府の報告書、学術論文、国際機関(OECD、EU、ILOなど)の政策文書を幅広く調査した。特に、以下のデータソースを用いた。
• EUおよび加盟国の政府報告書:障害者雇用政策とその財政的影響に関する公式データ。
• 学術論文:障害者雇用の経済的分析や雇用モデルの有効性に関する研究。
• 実証研究:障害者の職業適応、職場の合理的配慮(reasonable accommodation)、雇用維持率(employment retention rate)などに関する実例分析。
調査手法としては、キーワード検索、体系的レビュー、定性的データの分析を組み合わせて実施しました。
2.3 研究の限界(Limitations)
本研究にはいくつかの制約がある。
1. データのばらつき:EU加盟国ごとに障害者雇用政策やデータ収集方法が異なるため、直接的な比較が難しい。
2. 因果関係の特定の困難さ:障害者雇用支援の効果を他の経済要因と切り分けて分析することは困難である。
3. 雇用成果の長期的評価:雇用の安定性やキャリア形成の影響を評価するには、より長期間のデータが必要である。
これらの制約を考慮しつつ、可能な限り信頼性の高い分析を提供することを本研究の方針とした。
3. 財務コストと便益の計算(Calculating Financial Costs and Benefits)
3.1 コスト:効果と費用対効果(Cost: Effectiveness and Cost-Efficiency)
障害者雇用政策の費用対効果を評価する際には、以下の要素を考慮する必要がある。
• プログラムの直接費用:職業訓練、ジョブコーチ、適応支援、賃金補助などにかかる費用。
• 間接費用:行政管理費、労働市場への影響、労働生産性の変化など。
• 対費用効果(Cost-Effectiveness):障害者の雇用率の上昇、雇用の安定性、労働生産性の向上などの成果を測定。
• 費用便益分析(Cost-Benefit Analysis, CBA):政府の財政的負担と社会全体の利益を比較し、投資対効果を分析。
支援付き雇用(Supported Employment)や個別就職支援(Individual Placement and Support, IPS)などのプログラムの費用対効果を評価することで、政府や雇用主にとっての最適な政策選択肢を明らかにすることができる。
3.2 雇用主の視点(Employer Perspective)
障害者雇用に関する企業の視点を分析する際、以下の要因が重要となります。
• 採用コスト:障害者を雇用する際の人材確保・面接・採用プロセスのコスト。
• 職場適応の費用:物理的な作業環境の変更(例:バリアフリー設備の導入)、職場の合理的配慮(reasonable accommodation)の提供。
• 生産性への影響:障害者が職場で適応するまでの時間と、その後のパフォーマンス向上の可能性。
• 税制優遇・補助金:政府が提供する雇用インセンティブや税控除の活用可能性。
企業はこれらのコストと便益を考慮しながら、障害者雇用をどの程度拡大できるかを判断している。特に、雇用の長期安定性と生産性向上に関するデータは、雇用主が採用決定を行う上で重要な要素となる。
4. インクルーシブ雇用の効果的な実施可能性に関する証拠(Evidence that Effective Inclusive Employment Can Be Achieved)
障害者の雇用を促進するための施策にはさまざまなものがあるが、実際に成功を収めている事例を分析することで、効果的なモデルの特定が可能になる。本セクションでは、さまざまな障害を持つ人々の雇用を支援する取り組みについて、その成功例とともに考察する。
4.1 既存のインクルーシブ雇用モデル(Inclusive Employment Models That We Have)
インクルーシブ雇用の促進には、いくつかの異なるモデルが採用されている。代表的なものとして以下が挙げられる。
1. 支援付き雇用(Supported Employment)
• 障害者が一般企業で働くことを支援するモデルで、職場適応のためのジョブコーチングや職場内支援が含まれる。
• 個別のニーズに応じた就労支援が提供され、長期的な雇用の安定を図る。
2. 個別就職支援(Individual Placement and Support, IPS)
• 精神疾患や発達障害を持つ人々のために設計されたプログラム。
• 「まず就労し、その後必要な支援を受ける」というアプローチが特徴で、医療・福祉機関と連携して支援を提供する。
3. 補助金付き雇用(Subsidized Employment)
• 政府や自治体が企業に補助金を提供することで、障害者の雇用促進を図るモデル。
• 企業に対して財政的インセンティブを与え、障害者の雇用創出を促す。
4. シェルター雇用(Sheltered Employment)
• 障害者専用の作業所や雇用施設で働くモデル。
• 一般企業での就労が難しい人々に対して、安全な労働環境を提供する。
5. 社会的企業・協同組合(Social Enterprises and Cooperatives)
• 障害者自身が事業を立ち上げることを支援するモデル。
• 社会的企業(Social Enterprise)や協同組合(Cooperatives)を通じて、障害者の起業を促進する。
これらのモデルの適用範囲や効果は、各国の政策や社会状況によって異なるが、共通する点は「個別の支援」「職場での合理的配慮」「長期的な雇用の安定」の3つが鍵となる点である。
4.2 現在のモデルのパフォーマンス(Current Model Performance)
各国で導入されているインクルーシブ雇用モデルの効果を評価する際には、以下の要素が考慮される。
• 雇用継続率(Employment Retention Rate)
• 支援付き雇用やIPSのモデルでは、障害者の雇用継続率が向上する傾向がある。
• しかし、支援が不足すると短期間で離職するケースも多い。
• 職場でのパフォーマンス(Workplace Performance)
• 一部の障害者雇用モデルでは、適切なトレーニングと支援を受けた場合、障害のない労働者と同等の生産性を発揮することが示されている。
• 経済的持続可能性(Economic Sustainability)
• 政府補助金に依存するモデルと、自立した労働市場への統合を目指すモデルとで、長期的な財政負担のバランスが異なる。
4.3 税制および財政面での影響(Taxpayer Cost Outcomes)
障害者雇用に関する財政的影響を測定するためには、以下の要素が重要である。
• 社会保障費の削減(Reduction in Social Security Expenditure)
• 障害者が働くことで、生活保護や失業手当などの公的支出が減少。
• 一方で、適切な職場適応支援がないと、長期的な社会保障依存が続く可能性も。
• 税収の増加(Increase in Tax Revenue)
• 障害者が就労することで、所得税や消費税などの税収が増加。
• 企業の税制優遇を通じたインセンティブの効果も考慮する必要がある。
5. 他のステークホルダーへの影響(Impacts on Other Stakeholders)
障害者のインクルーシブ雇用を推進することは、障害者自身だけでなく、企業、政策立案者、社会全体に広範な影響を及ぼす。本セクションでは、主要なステークホルダー(関係者)にとっての影響を分析する。
5.1 企業(Businesses)
企業は、障害者の雇用を通じて以下のようなメリットと課題に直面する。
メリット
• 多様性の向上(Workplace Diversity)
• 障害者を含む多様な労働力を確保することで、組織の創造性や生産性の向上が期待される。
• CSR(企業の社会的責任)戦略の一環として、企業のブランドイメージ向上につながる。
• 従業員エンゲージメントの向上(Employee Engagement)
• インクルーシブな職場環境は、従業員の満足度やモチベーションを向上させる。
• チームワークの強化や、職場文化の改善にも寄与する。
• 財政的インセンティブ(Financial Incentives)
• 政府の補助金、税制優遇措置、雇用助成金などの経済的支援を受けられる。
• 一部の国では、障害者雇用を行う企業に対して減税措置が適用される。
課題
• 適応コスト(Adaptation Costs)
• 職場環境のバリアフリー化や、合理的配慮(reasonable accommodation)を提供するためのコスト負担。
• 特に中小企業では、財政的・人的リソースが不足しがち。
• 人材管理の難しさ(Challenges in HR Management)
• 障害に応じた個別のサポートが必要になることがあり、管理負担が増加する可能性。
• 従業員の意識改革や、ダイバーシティ・トレーニングの必要性。
5.2 個人(Individuals)
障害者にとって、雇用は単なる収入源ではなく、社会的包摂(social inclusion)の観点からも極めて重要である。
メリット
• 経済的自立(Financial Independence)
• 雇用による収入確保が、生活の質(Quality of Life)の向上につながる。
• 依存度の高い社会保障からの脱却が可能になる。
• 心理的・社会的メリット(Psychological and Social Benefits)
• 就労を通じて自己肯定感(self-esteem)や社会的ネットワークが広がる。
• 働くことが精神的な健康維持にも寄与する(例:うつ病リスクの低減)。
課題
• 職場適応の難しさ(Workplace Adaptation Challenges)
• 求職活動の過程で、雇用機会の制限や差別に直面する可能性がある。
• 適切な支援が受けられない場合、職場でのストレスや孤立感が増大する。
• 低賃金・キャリアの限界(Low Wages and Career Progression Barriers)
• 一部の業界では、障害者の賃金が低く抑えられる傾向がある。
• 昇進やキャリア形成の機会が制限される可能性。
6. 教育からインクルーシブ雇用への移行(Transition from Education to Inclusive Employment)
障害を持つ若者が教育から職業生活へ円滑に移行することは、長期的な雇用安定性や社会的包摂の観点から極めて重要だ。しかし、多くの障害者は学校卒業後に適切な雇用機会を得ることが難しく、NEET(Not in Education, Employment, or Training:教育・雇用・職業訓練のいずれにも参加していない)状態に陥るリスクが高いことが指摘されている。
本セクションでは、教育から職業生活への移行を支援するための施策と、それに関連する課題について検討する。
6.1 ジョブコーチを活用した就労支援(Job Coach-Supported Employment as an Approach to VET)
ジョブコーチ(Job Coach)は、障害を持つ若者が職業訓練や実際の就労環境に適応できるよう支援する専門職であり、インクルーシブ雇用の促進において重要な役割を果たす。
ジョブコーチの役割
• 障害者と雇用主の間の調整役となり、職場環境の適応を支援。
• 求職活動のサポート(履歴書の作成、面接対策、職業適性評価など)。
• 就職後のフォローアップを行い、継続的な職場適応をサポート。
ジョブコーチを活用した支援付き雇用(Supported Employment)は、特に知的障害や精神社会的障害(psychosocial disabilities)を持つ人々に対して高い有効性を示しており、雇用の安定性向上に寄与することが明らかになっている。
6.2 インターンシップの役割(The Particular Role of Internships in Promoting Inclusive Employment)
障害を持つ若者にとって、インターンシップ(Internship)は労働市場へのスムーズな移行を支援する効果的な手段となる。職場での実践経験を積むことで、以下のようなメリットが得られる。
インターンシップのメリット
• 職場経験の獲得(Gaining Work Experience)
• 実際の労働環境を体験することで、職場で求められるスキルや慣習を学ぶ。
• 雇用主にとっても、障害者の雇用適性を判断する機会となる。
• スキルの向上(Skill Development)
• 実務を通じて専門スキルやソフトスキル(対人関係スキル、時間管理能力など)を習得。
• インターンシップを終えた後、正式な雇用契約につながる可能性が高まる。
課題
• アクセシビリティの問題(Accessibility Challenges)
• 一部の業界では、障害者向けのインターンシップ制度が十分に整備されていない。
• 企業側の受け入れ態勢(バリアフリー環境、合理的配慮の提供など)が不足している場合がある。
• 経済的な障壁(Financial Barriers)
• 無給または低賃金のインターンシップが多く、経済的負担が大きい。
• 特に低所得層の障害者にとって、インターンシップの機会が制限される可能性がある。
6.3 ワーク・ファーストとトレイン・ファーストの比較(Evidence for Costs of Work-First and Train-First Approaches in Inclusive Jobs for Young People with Disabilities)
障害を持つ若者の雇用支援には、主に2つのアプローチが存在する。
- ワーク・ファースト(Work-First Approach)
• できるだけ早く就職し、その後必要なスキルを職場で学ぶ。
• 費用対効果が高く、短期間での雇用創出が可能。
• ただし、スキル不足が長期的なキャリア形成の妨げになる可能性がある。 - トレイン・ファースト(Train-First Approach)
• 事前に職業訓練を受け、必要なスキルを習得した上で就職する。
• 長期的な雇用の安定性が高まり、高付加価値の仕事に就く機会が増える。
• しかし、訓練期間中の経済的負担が大きく、就職までに時間がかかる。
これらのアプローチを適切に組み合わせることで、障害を持つ若者の就職成功率を高めることが可能となる。
7. 結論(Conclusions)
本報告書では、EUにおけるインクルーシブ雇用の現状と、その費用対効果、雇用者や障害者にとってのメリットと課題を分析した。以下に、本研究の主要な結論をまとめる。
7.1 インクルーシブ雇用の成功要因(Key Factors for Successful Inclusive Employment)
障害者の雇用促進には、いくつかの重要な要素が影響を及ぼす。
1. 職場での合理的配慮(Reasonable Accommodation)
• 企業が障害者の特性に合わせた適応を行うことで、雇用の持続性が向上する。
• 例:フレックスタイム制の導入、バリアフリー環境の整備、職務内容の調整。
2. 支援プログラムの充実(Availability of Support Programs)
• ジョブコーチの活用、支援付き雇用(Supported Employment)、個別就職支援(Individual Placement and Support, IPS)などのプログラムが、障害者の職場適応を支援する。
3. 企業のインセンティブ(Employer Incentives)
• 障害者を雇用する企業に対する財政的支援(税控除、補助金)が、雇用拡大の動機付けとなる。
4. 教育から就労への円滑な移行(Smooth Transition from Education to Work)
• 職業訓練(Vocational Education and Training, VET)やインターンシップを活用し、学校から職場へのスムーズな移行を実現する。
7.2 政策提言(Policy Recommendations)
本研究の結果を踏まえ、以下の政策提言を行う。
- インクルーシブ雇用モデルの拡大
• 支援付き雇用や個別就職支援(IPS)の導入を推進し、障害者が一般労働市場に参入しやすい環境を整備する。 - 障害者向け職業教育・訓練の強化
• 障害を持つ若者に対するVETプログラムの提供を拡充し、職業スキルを向上させる機会を増やす。
• インターンシップや職場実習を義務化し、職場経験を積む機会を確保する。 - 企業への財政的支援の強化
• 障害者雇用に積極的な企業への税制優遇や補助金の支給を拡充し、企業が積極的に障害者を採用するインセンティブを提供する。 - 障害者雇用に関する意識向上
• 企業や社会全体に対して、障害者の雇用に関する理解を深める啓発活動を強化する。
• 成功事例を広く共有し、インクルーシブな雇用文化を促進する。
7.3 今後の研究課題(Future Research Directions)
本研究では、EUにおける障害者雇用政策の経済的影響に焦点を当てたが、さらなる研究が必要な分野も存在する。
1. 長期的な雇用成果の分析
• 障害者雇用の長期的なキャリア発展や昇進の可能性について、さらなるデータ分析が求められる。
2. 産業別の障害者雇用の影響
• 特定の産業(IT、製造業、サービス業など)における障害者雇用の成功事例と課題を詳細に調査する。
3. 技術革新と障害者雇用
• AIや自動化技術が障害者の雇用機会にどのような影響を与えるかを検討する。
4. グローバルな比較研究
• EU以外の国々(北米、アジアなど)と比較し、効果的な障害者雇用政策のベストプラクティスを特定する。
7.4 最終的な考察(Final Thoughts)
本報告書は、障害者の雇用促進が経済的にも社会的にも意義のある取り組みであることを示した。
企業、政府、社会全体が協力し、障害者の職場参入を支援することで、持続可能で包括的な労働市場を実現することができる。
今後の課題として、障害者のキャリア形成支援や企業の受け入れ体制の強化が挙げられる。
政策立案者や雇用主が引き続き協力し、よりインクルーシブな社会を構築することが求められる。