本が発売されました

9月1日に東京大学出版会から「バリアフリー・コンフリクト」という本が発売されました.
これは私が以前所属していた東京大学先端科学技術研究センターのバリアフリープロジェクトのメンバーでまとめたものです.
バリアフリーって難しいんですよ.ユニバーサルデザインの文脈でバリアフリーって言葉が出てくることが多いんですよね.物理的なバリア(障壁)を取り除いて,だれもが使いやすい物や設備を作りましょう,的な.でも,実際のバリアというのは,物理的なものだけではなくて.あとは制度のバリアや人間の心のバリアが大きいんですよね.こういうものに対峙していくのは,たったひとつの方法ではできないんですよね.状況に応じて代わるバリア,人によって代わる価値観,こういうものをその場その場でうまく考えていかないといけない.そのためには,そういうことを考えるようにする仕掛けが必要なわけです.ところが,このバリアフリーというか障害について考えるときにそういう仕掛けはやりにくんですよね.「不謹慎」だと言われてしまう.いや,何が不謹慎なのかと言われてちゃんと説明しきれる人がどれだけいるんだろうかという話です.とにかくややこしい問題は見て見ぬふりをするのではなく,自分なりに取り組んで自分なりの解釈で,自分なりに説明きしる理解しきるということが重要だと思います.そうして,自分なりの筋と,他者の筋を合わせて可能な限りベストな道を選ぶと言うことが合理的配慮なんだろうと思います.

バリアフリー・コンフリクトではそういった仕掛けになるべく,あえて論争が起こりそうなトピックを取り扱うことにしました.
目次を見ていただければわかると思います.

第I部 バリアフリー・コンフリクトの実状
第1章 バリアフリーはなにをもたらしたのか?(中邑賢龍)――「能力」の保障・代替・増強のいま
第2章 役立つはずなのに使われない……――支援技術の開発と利用の狭間(巖淵 守)
第3章 人工内耳によって「ろう文化」はなくなるか?――ろう者の言語権・文化権と「音を聞く権利」を両立させる(大沼直紀)
第4章 障害者雇用って本当に必要なの?――制度の功罪と雇用の未来(岡 耕平)
第5章 読み書きできない子どもの難関大学進学は可能か?――障害学生への配慮と支援の公平性(近藤武夫)

インターミッション:「障害者」って誰?

第II部 バリアフリー・コンフリクトの論理
第6章 障害者への割引サービスをずるいと感じるあなたへ――「公平性」をめぐるコンフリクト(飯野由里子)
第7章 障害者のアートが問いかけるもの――「表現」をめぐるコンフリクト(田中みわ子)
第8章 裁かれない人がいるのはなぜか?――「責任」をめぐるコンフリクト(星加良司)
第9章 聴覚障害者のアイデンティティ・トラブル――テクノロジーの利用によって生じるコンフリクト(中野聡子)
第10章 「回復」と「代償」のあいだ――身体変容によって生じるコンフリクト(熊谷晋一郎)

障害者雇用なんて要らないと言うとどう思いますか?
何で障害者手帳があると「半額」になるのですか?

こういう「既にもう社会の中で決まってしまっていること」に対してあえて問いかけ,バリアフリーとは何なのか,考えてもらうためのテキストになっています.

合理的配慮という言葉が広まってきましたが,こういうことについて一通り考えて自分なりの見立てをもって取り組める人でないと合理的な配慮をするのは難しいように思います.自分の意見をゴリ押しするのではなく,多様な価値観がぶつかる中で,現実的な解を見つけていく,こういうことを経て合理的配慮というものができるのだと思っています.