レジュメ:eスポーツの世界における高齢者:質的研究
Esnard, C., Haza, M., & Grangeiro, R. (2024). Older people in the world of esport: a qualitative study. Frontiers in Psychology, 15, 1460966.
Introduction(序論)
高齢プレイヤーがゲーム世界に参加することは急速に増加しており、主要なeスポーツイベントでは彼らのための特別なカテゴリーが出現している。本研究の目的は、高齢者がeスポーツという競争的文脈に関わる際に直面する心理的課題を分析することである。本研究は2021年、フランスの協会 Silver Geek において実施された。この団体は、介護施設に居住する高齢者に対し、Nintendo Wii を用いたデジタルワークショップを提供し、さらに高齢者によるチーム同士の年次アマチュア競技大会を開催している。本研究は質的研究であり、参加者は63〜97歳の男女16名(女性8名、男性8名)であった。半構造化インタビューを用いて、高齢者にとってのeスポーツの「動機」「情緒的ウェルビーイング」「社会的影響」を探った。結果として、eスポーツに参加する高齢者は、新たなゲーム技能の発見と習熟、さらに社会的比較を通じたパフォーマンスの喜びを動機としていることが示された。参加者全員が強いポジティブな感情として表れる心理的ウェルビーイングを経験していた。さらに、事前のワークショップでも競技会本番でも、eスポーツの文脈は、特に若いeスポーツコーチとの間で、良好な社会的関係を形成する強い媒介となっていた。しかし、この活動が既存の家族関係に与える影響は小さかった。本研究は、eスポーツが高齢者の精神的健康および社会的統合を促進するレクリエーション活動としての可能性を明らかにした。今後の研究課題は、eスポーツを真の「世代間コミュニケーション」の媒介へと発展させるための要因を見出すことである。
GlobalWebIndex(2020)の報告によれば、世界中で55〜64歳のゲーマー人口は2018年以降32%増加している。フランスにおいても、Syndicat des Editeurs de Logiciels de Loisirs(2023)は、あらゆる世代がビデオゲームに参加しており、男女比もほぼ同等であると報告している。65歳以上の人の約半数(47%)がビデオゲームをプレイし、さらに50〜64歳の層ではその割合は61%に達する。この増加は、デジタル技術の普及だけでなく、上の世代が若い頃からビデオゲームに触れ、長年にわたり継続してプレイしていることにも起因する。多くは現在もアクティブなゲーマーである。これらのデータは、ここで世界保健機関(WHO, 2016)の定義にしたがい60歳以上と定義する高齢者が、ビデオゲームの世界において正当に「プレイヤー」として扱われる必要があることを示している。
ビデオゲームは今や独立したスポーツ実践とみなされており、電子メディアを介し、個人あるいはチームで、認知的能力(注意、集中など)や身体的能力(器用さ、協調、素早い反射、視覚的鋭敏さなど)を要する(Hallmann & Giel, 2018)。その結果、科学コミュニティは、高齢者の健康および生活の質に対するビデオゲーム実践の効果に注目するようになった(Steinkuehler, 2020)。
老年学的アプローチにおいてビデオゲームは、主に実用的特性(例:健康維持)および実践的特性(例:デジタル実践へのアクセス)に注目されてきた。この観点から、エクサゲーム(身体的な動き、筋力、バランス、柔軟性と、認知的能力を組み合わせたアクティブなビデオゲーム)は、高齢者の身体活動不足を軽減し(Boj et al., 2018; Zeng et al., 2017)、認知健康を改善することができる(Maillot et al., 2012a; Maillot et al., 2012b)。また、エクサゲームは気分に良い影響を与え(Onishi et al., 2022)、不安を軽減し(Viana et al., 2020)、高齢者の心理的ウェルビーイングを改善する(Chao et al., 2015)。
ビデオゲームが高齢者にもたらす社会的ウェルビーイングは、それ自体が目的として認識されてもきた(De Schutter, 2011; De Schutter & Abeele, 2015; Iversen, 2016; Osmanovic & Pecchioni, 2016)。
一般に、iPad のような新しいテクノロジーの使用を高齢者に訓練することは、彼らの社会的ウェルビーイングに寄与することが示されている。オンラインコミュニティへのアクセスを与えることで、高齢者は過去の人間関係を再構築し、家族とのコミュニケーションを改善できる(Delello & McWhorter, 2017; Winstead et al., 2013)。
高齢者におけるビデオゲームの「社交性」という点での利点については、社会学者 Lavenir(2023)の研究はより複雑な評価を導いている。ビデオゲームのワークショップにおける詳細なインタビューと観察に基づき、筆者は「ビデオゲームは、高齢者の社会生活に統合することが難しい」と指摘している。高齢者の社会生活は、年齢を重ね施設に入ることで次第に断片化していく傾向があるためである。
それでも筆者は、こうした施設(介護施設、独立型高齢者住宅、コミュニティセンター)で提供されるワークショップは、ビデオゲームを巡る多様な社会的交流が発展しうる数少ない場であると述べている。そこでは、参加者同士の交流だけでなく、活動を担当する若いボランティアや、ホスト機関・関連団体のスタッフとの交流も生じる。
しかし Lavenir が指摘するように、高齢者に対するデジタル技術やビデオゲームへのアクセス促進、すなわち世代間の「デジタル格差を埋める」試みは、一種の社会的要請、すなわち「よく老いる(age well)」ための要請の一部とみなすことができる。この場合、役に立つ余暇活動としてのゲームという形をとるが、必ずしも高齢者自身にとって魅力的とは限らない(Puijalon & Trincaz, 2014)。
これまで見てきたように、ビデオゲームが高齢者の健康や生活の質に及ぼす影響については、すでに多くの知見が蓄積されている。しかし、特に介護施設に居住する高齢者が eスポーツ大会に参加することに伴う心理的課題について、具体的に扱った研究はほとんど存在しない(Kelly & Leung, 2021; Onishi et al., 2022)。
eスポーツ(electronic sport)は、「国内外のビデオゲーム競技において、プレイヤー間で中間的な画面を介して行われる規定化された対戦」と定義される(Besombes et al., 2016)。世界中でプロの eスポーツ組織が誕生しており、チームやリーグ、プロプレイヤー、コーチ、アナリスト、解説者が存在する。eスポーツ大会は、Twitch や YouTube Gaming といったオンラインプラットフォームでライブ配信されることが多く、東南アジア競技大会や Paris Games Week のような大規模なイベントのきっかけとなっている。
eスポーツは伝統的に、幼い頃からゲームに親しんできた若年層によって行われてきた。eスポーツを含むゲームの世界における高齢プレイヤーの参加は比較的最近の現象だが急速に増加しており、主要な eスポーツイベントでは彼ら向けの特別な部門が登場している。
eスポーツの世界で高齢者が直面する特有の心理的課題は多く、多くの問いを提起する。すなわち、制度的な eスポーツの期待を超えて、参加者が語る動機とは何か。競技はポジティブな感情を通して高齢者の心理的ウェルビーイングを高めることができるのか。
対照的に、上達できないこと、技能の低下、競技での不振は、高齢者に自身の身体的・精神的能力の低下を突きつけ、自己肯定感の低下や社会的撤退につながりうるのか。eスポーツは、高齢者が社会的関係、とりわけ家族との関係を豊かにする手段となりうるのか。
この質的研究の具体的目的は、上記の問いに答えるための枠組みを与える3つの研究質問によって導かれた。
Research question 1 高齢者が eスポーツに関与する動機は何か。
ビデオゲームを実践する高齢者の動機に注目した研究は複数存在する。ある高齢者は、ウェルビーイングの追求、技能維持、退屈への対抗を主たる動機としている(Hall & Marston, 2015; Goldstein et al., 1997; Farris et al., 1995)。一方、別の高齢者では、楽しさやリラクゼーション(De Schutter, 2011)、現実逃避(Pearce, 2008; Nap et al., 2009)、家族と共にビデオゲームをプレイすることによる社会関係維持(Schultheiss, 2012)が主要な動機となっている。
また De Schutter(2011)は、「挑戦」、すなわち上達したいという欲求を強調している。しかしながら、我々の知る限り、高齢の eスポーツプレイヤーの動機を特に扱った研究は存在しない。
eスポーツは単にビデオゲームという娯楽活動にとどまらない。それは、さまざまなレベルでの社会的比較プロセスを促進しうる文脈を生み出す。すなわち、時間の経過による自己のパフォーマンスの比較(自己比較)や、競技中に同年代または年齢の異なるほかの高齢者との比較などである。
この文脈において、高齢者の動機づけは、達成目標モデル(Wolfe & Crocker, 2003)に基づいて検討することができる。このモデルは最近、Urdan & Kaplan(2020)により更新された。この理論枠組みは、仕事、教育、スポーツ、そして近年では eスポーツ(Svensson, 2024)など、多様な文脈において、個人の目標が行動やパフォーマンスにどのように影響するかを理解するために広く用いられてきた。
このモデルによれば、個人は2種類の目標を単独または組み合わせて追求しうる。
- パフォーマンス目標は「自我(ego)」を強調し、社会的比較を通して自己価値を追求する。eスポーツでは、試合に勝つことやランキングを上げることが該当する。
- 熟達(学習)目標は「課題(task)」に焦点を当て、新しい技能を理解・習得することを含む。eスポーツでは、精度の向上や熟練したゲームプレイを目指すことがこれに当たる。
これまでのところ、達成目標モデルを用いて、高齢者が身体活動に参加する動機や、それが身体的・心理的ウェルビーイングに及ぼす影響を検討した研究は少ない。特に Riou(2014)は、若年者と比較して高齢者の自尊心がより不安定であること(研究1)、そして、非常に高齢で施設に入っている人々において、熟達志向的な動機づけ環境で身体活動に参加することが有益であること(研究5)を示した。しかし、高齢者のビデオゲームプレイの動機とウェルビーイングとの関連を検討した研究は、これまで存在しない。
Riou ら(2012)が、専門ケア施設で身体活動プログラムに参加する高齢者を対象に行った研究に基づき、本研究では、新しい技能の発見や習得を強調する動機づけ環境(熟達・学習目標)が、加齢に伴う課題や能力低下に適応する戦略につながりうると仮定する。
したがって、eスポーツに参加する高齢者の心理的ウェルビーイングは、熟達目標とパフォーマンス目標の双方をうまく追求する戦略に関連している可能性がある。
Research question 2 eスポーツは高齢者の情緒的ウェルビーイングにどのような影響を及ぼしうるか?
感情はビデオゲームのプレイに不可欠な要素である。いくつかの研究は、ビデオゲームのプレイとポジティブな感情や気分の向上との因果関係を示している(Russionello et al., 2009; Ryan et al., 2006)。Granic ら(2014)によれば、ビデオゲームという文脈は、ネガティブな感情の制御や調整をもたらしうる。言い換えれば、ビデオゲームをプレイすることで、特定のネガティブな感情を抑え、よりポジティブな感情を生み出すことができる。
ビデオゲームの楽しさは重要な要因であり、それは能力感や自律性といった心理的欲求を満たすことができるプレイヤーの能力に依存する(Tamborini et al., 2010)。
高齢者によるビデオゲーム実践に関して、Jung ら(2009)は、56〜92歳の住民46名を対象として Nintendo Wii を用いた6週間の介入を行い、伝統的なゲームを行った住民と比較して、Nintendo Wii をプレイした住民の方が情緒的ウェルビーイングが高まったことを示した。
eスポーツに関して、Behnke ら(2022)は、複数の映画シーンを用いて、怒り・熱中・悲しみ・楽しさといった異なる感情を意図的に誘発した。彼らの目的は、感情が eスポーツゲーム(例:FIFA 19)におけるパフォーマンスにどのように影響するかを検証することであった。熱中や楽しさは、目標追求に関連する接近的パフォーマンス傾向を介して、より良いスコアにつながった。
しかしながら、この領域の研究は極めて少ない。そのため本研究の目的は、eスポーツに関わる高齢者のウェルビーイングに寄与する、適応的な情動調整方略を明らかにすることである。
Research question 3 eスポーツの実践は高齢者の社会的相互作用にどのような影響を与えるか?
身体的な近接が必須ではなくなったことで、オンラインゲームは高齢者に、世代間関係を維持する機会を提供している(Osmanovic & Pecchioni, 2016, 2017)。
Lavenir(2023)は、ビデオゲームが高齢者の社会的関係にどのように寄与するかについて検討した。プレイヤーたちの語りにおいて、ビデオゲームでの問題解決や、新しいことに取り組む際に、友人や家族に助けを求めたり、助けを受けたりしたと述べる者はほとんどいなかったと筆者は指摘した。
高齢者において、社会的ネットワークは、友人や隣人、いくつかの親密な横方向の家族関係(兄弟姉妹、いとこ、義理の兄弟姉妹)および成人した子どもたちを中心に形成されている(Desquesnes et al., 2018)。
ビデオゲームがメディアで広く取り上げられていることを踏まえると、高齢者の競技的なゲーム実践は、彼らの家族ネットワーク、特に子や孫・甥・姪などの若い世代に対して関心を引くと推測できる。
したがって本研究では、高齢者における eスポーツの世代間(家族間)影響を分析した。
2 Materials and methods
2.1 Study design
本研究は、記述的質的研究法を用いて実施された。これは医療分野でよく用いられる方法である(Kim et al., 2017)。本研究がこの方法論を採用した理由は、探索的研究目的に合致していたためである。すなわち、参加者によって知覚された eスポーツ経験を可能な限り正確かつ忠実に観察・記述することが求められたためである。
この方法論は、本研究の目的――「特定の活動(eスポーツ)を、これまで研究がほとんど行われてこなかった対象集団(介護施設に居住する高齢者)について分析すること」――に適していた。 半構造化インタビューが、3つの主要研究質問を指針として実施され、得られたデータは主題分析法(thematic analysis)を用いて処理され、意味のある解釈が導かれた。
2.2 Participants and procedure
本研究は2021年、フランスの団体「Silver Geek」において実施された。同団体は、タブレットや Nintendo Wii コンソールを用いたデジタルワークショップを介護施設に住む高齢者に提供することで、「illectronisme(デジタル・リテラシーの欠如)」と闘っている。同協会はまた、高齢者チーム同士の年次アマチュア競技会「Silver Geek Senior Trophy」を開催しており、その地域決勝は Gamers Assembly、Paris Games Week、Japan Expo、Stunfest などの主要イベントにおいて行われる。Silver Geek 協会の活動する一部の介護施設では、18〜25歳の若いコーチが運営する週1回の Wii ボウリングのワークショップに参加することで、ボランティアの高齢住民が大会に向けて準備する。
過去2年間にこれらの eスポーツ大会に1回以上参加した高齢者のリストが作成された。そのリストに記載された人々には、研究の目的と手続きを説明したうえで、各施設の管理者を介して連絡が取られた。そのうち、施設管理者に対して研究参加への同意を示した者にのみ、研究チームの4名(CE, RG, CB, LD)のいずれかによるインタビューの予約が提案された。
介護施設でインタビューが行われる当日、参加者には再度同意が求められた。インタビューの場所は参加者本人の裁量に委ねられ、静かで馴染みのある場所を自由に選択することができた。各インタビューの開始時に、研究に関する説明が行われた。研究者は参加者に対し、インタビューが録音されること、ならびに個人情報・提供情報は厳重に守られ、プライバシーが保護されることを告げた。
その後、書面によるインフォームド・コンセントが取得された。最終的に、データ収集時点で63〜97歳の男女16名(女性8名、男性8名)がサンプルとなり、8つの介護施設から参加した。このうち5名(最も若い参加者で、BおよびH施設居住者)は、認知機能の低下がみられた。
サンプルの特徴は 表1 に示した。
2.3 Instrument(調査内容/インタビューガイド)
半構造化インタビューガイドは、文献調査、研究グループ内での議論、そして事前面接を経た修正を通じて作成された。
年齢、家族、余暇活動、ビデオゲーム習慣に関する社会生物学的質問が行われ、その後、以下の質問が続いた:
(1)普段の社会的関係について教えてください。
(2)普段、ビデオゲームをプレイすることについてどのように感じていますか?
(3)あなたが競技としてビデオゲームをプレイする動機は何ですか?
(4)これまで家族(子ども、孫など)と一緒にプレイしたことはありますか?もしあれば、どのような時だったか教えてください。
(5)家族は、あなたが競技者であることを知っていますか?知っている場合、彼らはどのように思っていますか?彼らは競技に参加しますか?競技中、彼らとどのような関係がありますか?
(6)これらの集まり(ワークショップや競技)に関連する思い出があれば教えてください。また、何か付け加えたいことはありますか?
質問は、各参加者の言語理解および表出能力のレベルに応じて調整された。したがって、このガイドは、質問内容が正しく理解されていると確信できるまで、状況に応じて調整・再構成できる枠組みとして用いられた。誘導や示唆は避けられた。各インタビューは20〜40分間であった。
2.4 Data analysis(データ分析)
録音された会話は逐語的に書き起こされた。
その後、書き起こし内容は原録音と照らし合わせて逐一確認され、正確性が確保された。データは、Braun & Clarke(2006)の手続きに従い、手作業にて帰納的主題分析(inductive thematic analysis)を用いて分析された。
(1)2名の研究者(CE と RG)が書き起こしを独立に読み、データへの理解を深め、研究質問に関連する情報を個別に抽出した。研究質問に直接関係しないが関連性があると思われる情報も保持した。
(2)研究チーム全体が手作業でコード化を進めた。4名の研究者が逐語記録を独立に読み、重要な発言にコードを付与した。
(3)これらのコードを分析単位としてグループ化することで、インタビューに共通して現れるテーマおよび研究質問に関連するテーマを特定した。
その後の対面会議において、研究チームはテーマを検討・検証し、必要に応じてコードを分割・統合・削除した。テーマおよびコードに関する意見の相違は議論され、合意が形成された。
最終的に15のコードが特定され、5つのテーマに分類された(表2)。各コードについて、参加者ごとの出現頻度(有=1、無=0)が集計され、これらのコードに関連した逐語記録がデータ解釈に用いられた。
3 Results
データを提示するため、以下に各テーマおよびコードに関連する、最も代表的な逐語記録を示す。
Research question 1:高齢者が eスポーツに参加する動機
「動機」に関して、熟達目標に関連する「発見と上達」の意図は、16名中12名から表明された。以下のような発言が例として挙げられる:
「できるだけ上達することが私の目標です」(FV)
「タブレットでプレイするのは初めてだったので、すべてを学ばなければなりませんでした。今はなんとかやれています」(JLN)
「やったことがないことでした。できるとは思っていませんでした。最初はやめたいと思いました。でも、まあ続けてみたら、できるようになりました。自分でも驚くことがあります」(DN)
「ボウリングには学ばなければならない動作があります。うまくいっていないところを特に理解しようとしています」(RV)
「まあ、やってみないと…。自分で直そうとするんです」(CO)
「勝つ/他者より良くなる」というパフォーマンス目標を表した参加者もほぼ同数で、16名中11名であった。
例として以下が挙げられる:
「勝つために行くけれど、気にするほどではありません。勝てれば良いし、勝てなければ残念。上手な人がいて、その人たちが1位になりました。それはとても良かったです。もちろん私たちが勝てればよかったけど、まあそれでも構いません」(EM)
「良いスコアが出れば嬉しい。1位になりたい気持ちはありますが、必ずしもそれが目的ではありません。できれば最下位にはなりたくないですね」(SM)
「普通は、目標は勝つこと。勝てたら嬉しい」(JLN)
「今年はチャンスがあるし、そのためにできることは全部やるつもりです。結果はどうなるかわからないけれど、失敗したくはありません」(MB)
参加者のうち9名は、熟達目標とパフォーマンス目標の両方を表明した。
例:
「何かをプレイするなら、一般には勝つことが目標です。でも1位になるのは簡単ではありません。よくできればそれで良い。人の目標は、できる限りベストを尽くすこと。大事なのはそこに到達することですが、順位が高いならさらに良い。好ましいですね」(RV)
「人生で私はいつも、知らないことを探してきました。新しいことを発見するのが好きですが、プレイするなら勝つためです」(BX)
主要動機ではないが、「雰囲気を楽しむ」ことを動機として挙げた者が6名いた。
例:
「私が求めているのは雰囲気です。励まされるし、やる気が出ます」(RV)
「雰囲気が好きです。私たちのために来ている人がたくさんいます」(AD)
1名は唯一の動機として「暇つぶし」を挙げた。
「ただ時間をつぶすためです……」(LF)
また1名は、「遊ぶこと」自体が目的であると述べた。
「遊ぶのが好きなだけです」(AB)
Research question 2:eスポーツが高齢者の情緒的ウェルビーイングに与える影響
「感情」に関して、すべての参加者が、集団でのゲームや競技的な雰囲気に伴う「喜び」「楽しさ」「陽気さ」といったポジティブな感情を通して、eスポーツ実践における情緒的ウェルビーイングを表明した。
例:
「天気は最高、人々は陽気でした。若くて熱心な仲間と一緒でした。とても良い一日でした。それだけです」(BX)
「楽しみました。ええ、廊下で会うと『またやろう!』と言い合っていました。その日を楽しみにしていました」(CO)
「コースがいくつかあって、誰かが勝つとほかのみんなが見て応援します。この中でプレイするには上手くなきゃいけない。ああ、とてもすごいことですよ」(RV)
「みんながとても熱心で、関わっていて、プレイしている人を応援しているのを見ると、面白かったですね。それがすべてでした。良かったです。たくさん拍手をもらいました。人々は叫んだり拍手したり、まるで以前から私を知っていたかのようでした(笑)」(EM)
「いやあ、盛り上がりましたよね?(笑)僅差でした。私たちはほとんど勝てませんでした。すごく人が多かった。ええ、本当に印象的でした。実際、観客が『いけー!いけー!』と言うので、完全に集中が切れました(笑)。それは感情であり、舞台の緊張です。良い思い出です」(JLN)
4名の参加者は、ゲームに対して「苛立ちや緊張」を示したり、敗北後にフラストレーションを表明したが、それはスポーツマンシップにのっとった態度であった。
「3回プレイするのに1時間も待たないといけないんです。あの女性が立ち上がってもボールを取らないから(身振りで示す)。だから私たちは見せて、どう投げるか説明するんです。近すぎたり遠すぎたりしますから」(RV)
「負けるのは好きじゃない。いや、神経に障るほどではないけれど、うーん、相手に追い抜かれるとちょっとイラッとします。ああ、イライラしますね」(BX)
「地域大会で敗退してしまって、がっかりしました。自動モードでプレイしたことがなかったので、やり方が分からずペナルティを受けました。コントローラーを持っていてもボタンに触れられないし、狙えません。動くとすぐにボールが行ってしまいます。それが少し悔しかったです」(MB)
「悔しいです。まあ、もちろん勝ちたいけど、みんな勝ちたいんですよね」(DB)
Research question 3:eスポーツ実践が高齢者の社会的相互作用に与える影響
参加者の社会的関係に関する質問は、
1)インタビュー時点での「知覚される社会的つながり」
2)eスポーツを取り巻く「社会的つながり」
3)ビデオゲームおよび eスポーツを取り巻く「世代間の社会的つながり」
の3つのテーマから取り上げられた。
1)Perceived social links(知覚される社会的つながり)
知覚される社会的つながりについては、10名が「家族との関係」について言及した。そのうち7名は、ウェルビーイングに関連するポジティブな社会的サポートを感じていた。
例:
「私には成人した孫がいます… 毎日子どもたちと電話やビデオ通話をします。子どもたちは私の支えです」(EM)
「息子は最低でも2日に1回電話をくれます」(CO)
一方、3名は家族との距離感を表明した。
例:
「姉とはあまり話しません」(JLN)
「家族? いいえ、連絡は全くありません」(RV)
5名は「施設内の他の入居者との関係」について述べ、そのうち4名は肯定的、1名は否定的であった。
例:
「ここでは皆とうまくやっています」(SM)
「ここでは皆が個人主義。利己的なんです」(RV)
さらに3名は、「施設外の友人」と連絡を取り続けていると述べた。
例:
「メールでやり取りする友人がいます」(EM)
2)Social links around esport(eスポーツを取り巻く社会的つながり)
3名は、ボウリングワークショップにおける他の入居者との社会的つながりを肯定的に述べた。
例:
「ボウリングが私たちを近づけてくれました」(JLN)
「施設では、ボウリング仲間の小さなチームです」(EM)
同じ文脈で、10名はワークショップを運営する若いコーチとの社会的つながりが豊かであると述べた。
例:
「若い人たちが来て、私たちを訓練して、アドバイスしてくれます… 互いに良い関係です」(EM)
「若者たちと友達になりました」(SM)
「『おじいちゃん、いけー!』と言ってくれるんです(笑)」(BX)
3)Cross-generational social links(eスポーツを介した世代間交流)
ビデオゲームやeスポーツについて「家族と話した」と答えた14名のうち、8名は家族が誇りを表明したと述べ、6名は家族が比較的無関心だったと述べた。
例:
「孫や息子、友人など30人くらいが応援に来ました」(MB)
「孫たちは『おじいちゃんすごい!』と言ってくれました」(BX)
「家族は喜んでくれています」(GA)
2名は、家族と時々ビデオゲームを一緒にプレイすると述べた。
また2名は、タブレットやコンピュータなどのデジタルツールを使って家族とコミュニケーションを取っていると述べた。
4 Discussion and implications(考察と示唆)
eスポーツを始めた高齢者から得られたフィードバックを分析することで、本研究の問いに関していくつかの示唆が得られる。
参加者の誰も、認知的または身体的能力の維持に関連した動機を表明しておらず、単に暇つぶしを求めている者もごく少数であった。むしろ、eスポーツは単なるゲームにとどまらず、深い関与をもたらすプラットフォームとして機能しているようである。
達成目標モデルの枠組みに沿って、熟達(発見と上達)およびパフォーマンス(勝利・他者より優れる)に関する目標の両方が、参加者によって自発的に表明された。これは、eスポーツの競争的環境が、Wolfe & Crocker(2003)のモデルに沿って、達成目標の発達を促すことを示唆している。
さらに、Jung ら(2009)の結果と一致して、インタビューは eスポーツがこれらの高齢プレイヤーのウェルビーイングに寄与していることを示した。参加者は、競技が集団としてもたらす興奮に関連して、喜び・楽しさ・上機嫌といった強いポジティブ感情を経験したと報告している。実際、競争的雰囲気は多くの参加者にとって重要な動機づけ要因であるように思われる。
少数の参加者は緊張やフラストレーションなどのネガティブ感情に言及したが、これらは通常、特定の競技状況に関連していた。競技中の過度なプレッシャーや失敗によって、長期的な不快感を抱いたと述べた参加者はいなかった。
社会的関係に関しては、eスポーツは高齢者にとって良好な社会的経験の源となっているようである。
参加者の半数以上にとって、準備ワークショップや実際の競技における eスポーツ環境は、特に若い eスポーツコーチとの間で、ポジティブな社会的相互作用を生み出す重要な源であった。参加者が述べたように、ビデオゲームや競技を通じた若いコーチとのつながりは、歓迎される世代間のつながりの回復を指している。このつながりは、一部の参加者の家族にも広がった。特に、参加者の半数は、家族から関心や誇りの表明を受けたと述べた。
こうしたポジティブな強化、特に複数の参加者が強調した孫からの強化は、eスポーツが世代間の架け橋となり、有意義な交流を促進する可能性を示している。
しかし、こうした交流は競技以外では限定的であり、家族とときどきビデオゲームをプレイした参加者は2名のみであった。さらに、参加者の中には、eスポーツへの関わりに対する家族の無関心を指摘するもいた。
本研究で得られた語りからは、この無関心が eスポーツに特有のものなのか、それとも高齢者が施設で行うあらゆる活動に対してより広く示される無関心なのかは明確ではない。いずれにせよ本研究の結果は、テクノロジーやゲーム文化に対する世代間の態度を含む、家族の支援を規定する要因に関する重要な問いを投げかけている。ビデオゲームが世代間コミュニケーションの新たな媒体となるには、高齢ゲーマーを取り巻く一定のステレオタイプや偏見に対処する必要があるだろう。
eスポーツに参加する高齢者に対する社会的認識の転換も必要である。この転換を促すためには、家族がワークショップや競技準備により積極的に関与することで、世代間のギャップを埋めることができるだろう。さらに、eスポーツコミュニティ内で高齢プレイヤーをより認識し包摂する必要がある。
結論として、介護施設で提供された eスポーツプログラムは参加者に好意的に受け止められた。トレーニングおよび競技のどちらにおいても、参加者は新しい発見や技能の獲得、競技プレイの喜びを通して充足感を得ており、失敗によって心理的ウェルビーイングが損なわれることはなかった。
これらの結果は、高齢者にとっての活動の「遊戯的・快楽的側面」を強調した De Schutter & Abeele(2015)の「gerontoludic(高齢者遊戯)宣言」の視点と一致する。
Silver Geek 協会によって提供される eスポーツワークショップは、認知的・身体的衰えの予防や回復といった老年学上の課題への対応を目的としていない。むしろ、参加者はこれらのワークショップを純粋なレクリエーション活動として認していた。加齢がある程度の衰えや能力低下を伴うことは否定できないが、高齢者の誰も、eポーツにおける要求に応えられるかについて懸念を表明しなかった。
Study limitations(研究の限界)
本研究には、今後の研究方向を示すために認識すべきいくつかの限界がある。第一の限界はサンプルサイズが小さいことであり、観察されたテーマ頻度をより広い母集団へ一般化する能力が制限される。サンプルには、年齢・認知レベル・言語表出能力の異なる個人が含まれていた。特に、5名(BとHの施設に居住)は認知障害を持ち、家族とのつながりが最小限(例:独身・子がいない)であった。この多様性は、すべての参加者が eスポーツ経験を同程度に語れる能力を持っていたわけではないため、結果の信頼性に影響を及ぼす可能性がある。それにもかかわらず、この異質性は、同一の活動に参加する高齢者が多様な経験を持つことを浮き彫りにしている。先行研究は、高齢ゲーマーが均一な集団ではないことを認識する重要性を強調してきた。年齢・性別・心理社会的文脈といった要因を考慮することで、動機づけやビデオゲームに関連する多様な意味について、より精緻な理解が得られる。
5 Conclusion(結論)
高齢者をデジタル時代へ統合することは、公衆衛生の観点から大きな社会的課題である。近年、ビデオゲーム産業、医療分野、「健康的な老い」を推進する団体が、高齢者にゲームの世界へ参加する機会を創出しようと努めている。過去10年の研究は、定期的なビデオゲームのプレイが、認知的・身体的衰退の特定の側面を緩和し、デジタルスキルを育み、加齢とともに失われがちな社会的つながりを維持することに役立つことを示している。これらの知見にもかかわらず、高齢者を対象とした eスポーツ研究は、いまだ萌芽的段階にある。
本研究は、高齢者が eスポーツ競技へ参加することで得られる可能性のある心理的・心理社会的利益を明らかにする。しかし、どのような高齢者が最も利益を得られるのかを特定し、潜在的リスクを評価し、それを軽減する戦略を検討するためには、さらなる研究が必要である。eスポーツの競争環境は、心理的ウェルビーイングにポジティブな影響を与えるようである。こうした利益が持続的なものとなり、単発的なイベントに限定されないようにするためには、世代間のつながりをどのように育むかを探ることが重要である。これにより、eスポーツは世代を超えた個人的・集団的経験を共有するための、意義深い場となるだろう。