レジュメ:障害のある人に対する認識:配慮はいつ公平と言えるのか?
Paetzold, R. L., García, M. F., Colella, A., Ren, L. R., Triana, M. D. C., & Ziebro, M. (2008). Perceptions of people with disabilities: When is accommodation fair?. Basic and Applied Social Psychology, 30(1), 27-35.
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Abstract
我々は、障害をもつ人々への配慮がどのように知覚されるかを、①配慮を認めるか否か、②報酬構造(競争 vs. 協力)、③単語探し課題で最も成績が良いのは誰か、の3要因を操作する実験で検討した。134名の学部生データは、配慮が付与された場合は付与されなかった場合より「公正でない」と評価されること、障害をもつ人物が高成績を収めたときはそうでないときより「公正でない」と評価されること、そして「障害をもつ人物が配慮を受けかつ高成績を収めたとき」に公正感が最も低下することを示した。障害をもつ人々の機会均等を目的とする米国障害者法(ADA)の意図に反し、配慮が依頼者を実際に助けた場合、周囲はそれを不公正とみなすことが明らかになった。
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Introduction(導入)
ADA は、障害を理由とする職場差別を緩和し「公平な競争環境」を整える目的で1990年に制定された。配慮には、建築上の改善や支援ソフトウェアの提供、服薬スケジュールに合わせた柔軟な勤務時間など多様な形態がある(例:Lee & Newman, 1995)。しかし ADA 施行当初に懸念された「費用負担」は事実上小さかった一方、新たに (1)配慮の悪用 と (2)周囲への不公平感 が問題視されるようになった(Colella, 2001; West & Cardy, 1997)。本研究は、同僚の公正感を低下させる条件を実証的に検討する初期の試みである。
導入部ではさらに、
• 分配的公正の観点:配慮は「受益者の投入を減らし成果を保つ」ため不公平と感じられる (Adams, 1965)。
• 手続き的公正の観点:配慮プロセスが同僚に不透明だと不当とみなされやすい (Colella et al., 2004)。
• 見えない障害(例:ディスレクシア)の場合は「詐称では?」という疑念が強まり、公正感がさらに低下する——という理論的背景を提示している。
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Hypotheses(仮説)
1. 配慮付与 vs. 不付与
付与されると公正感が低下する。
2. 依頼者の成績
依頼者が他者を上回る場合、公正感が低下する。
3. 上記2要因の交互作用
配慮が付与されかつ依頼者が高成績の場合、最も不公正と評価される。
4. 報酬構造(競争 vs. 協力)
競争状況では配慮に対する不公正感が強まる。
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Method(方法)
参加者
米国南西部の総合大学に在籍する 163 名の学部生(女性 53.4%、平均年齢 21 歳)が、成績加点と引き換えに実験へ参加した。人種構成は白人 73.6%、ヒスパニック 19%、アフリカ系 4.3%、アジア系 1.2%、その他 0.6%であった。
実験デザイン
3(配慮:付与 / 不付与) × 2(報酬構造:競争 / 協力) × 2(成績:依頼者最高 / 依頼者以外最高)の完全要因計画。被験者は個別ブースで 5 分間の単語探し課題を実施し、条件に応じて報酬(最大 3 ドル)を得た。ディスレクシアを理由に +3 分の延長を要請する女性協力者(モニークという名前のディスレクシアという設定のサクラ)が同席し、実験者が要請を認めるか拒否するかを操作した。
操作チェック & 測定
• 競争 / 協力感の知覚:7 項目 Likert(例「個人勝者だけが報酬を得た」)。
• 配慮認識:「モニークは追加 3 分を与えられた」。
• 配慮の公正感:逆転 3 項目(α = .77)
「モニークは不当な優位を得た」「報酬をもらいすぎた」「彼女のせいで私の報酬が減った」等。
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Results(結果)
ANCOVA により以下が確認された。
• 主効果:配慮
付与 M = 3.80 < 不付与 M = 4.25(5 段階、数値が大きいほど公正) F(1,112)=8.14, p<.01
• 主効果:成績
依頼者最高 M = 3.86 < 他者最高 M = 4.19, F(1,112)=4.36, p<.05
• 交互作用:配慮 × 成績
「配慮付与+依頼者最高」で最も公正感が低下 F(1,112)=5.82, p<.05 (他 3 条件と有意差)
• 配慮 × 報酬構造 は不成立。
Table 1(相関・平均・SD)と Table 2(2 要因交互作用の平均差)も同結果を示し、公正感は “4=やや公正” を基準に概ね偏差 0.4~0.8 ポイントで変動した。
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Discussion(考察)
• 自己奉仕バイアス
参加者は「自分の報酬が脅かされる」ときにのみ配慮を不公正とみなした。これは報酬が無関係なら効果が消える追加実験でも支持された。
• スティグマ理論との整合
ディスレクシアなど「見えない障害」は能力不足の烙印(stigma of incompetence)を伴いやすく、配慮の正当性が疑われやすい【Heilman & Haynes, 2004】。
• 実務上の含意
配慮による “助け” が明確に成果へ表れる場合、周囲の反発を招く可能性がある。組織は教育研修や業務再配分などを通じ、不公正認知を緩和する仕組みを構築すべきである。
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Conclusions(結論)
ADA は障害者の「競技場を平らにする」ことを狙うが、本研究は 配慮が依頼者の実利につながると周囲が不公正と判断する パラドックスを示した。この認知は当事者へのいじめ・排除を助長し、当事者が配慮要請を控える抑止力ともなり得る(Clair et al., 2005)。したがって組織は、配慮プロセスの周知徹底と文化的受容を高め、真に公平な職場環境を整備する必要がある。
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図表の言語解説
• Table 1 は主要変数(配慮公正感・配慮有無・成績・競争度・統制変数)の相関と記述統計を示し、配慮公正感は配慮付与・依頼者最高の条件で最も低い(逆転尺度なので数値が小さいほど「不公正」)。
• Table 2 は「配慮 × 成績」の4条件平均を対比し、付与+依頼者最高=3.45 が他条件より有意に低く、交互作用を視覚化している。