iPhoneをタイムエイドとしてつかうアプリ

知的障害や発達障害のある人のなかには,時間の感覚をもちにくいという人がいます.
そういう人たちに対する支援技術として「タイムエイド」があります.

タイムエイド専用機としてポピュラーなものではタイムタイマータイムログQHW(クォーター・アワー・ウォッチ)などがあります.

これらは全て「時間」という抽象概念を,面積や光点の数といったように「量」として「眼で見てわかる」ようにするツールです.時間という抽象概念の感覚がなかなかつかめない人であっても,量としてであればその感覚をつかめる人たちが多くいます.

このような専用機はとても使い勝手がよく,特別支援教育の現場ではよく見かける物です.

これらについて,iPhoneにもタイムエイドになるアプリがあります.

LotusLotus

このアプリは円→扇形といった面積の減少によって時間を量的・視覚的にわかりやすくしたアプリです.緑色の円形・扇形の部分が蓮(Lotus)の葉に見えるということから,Lotusという名前になったそうです.
特徴としては,一度時間を設定してスタートすると,特殊な画面タップをしないと,タイマーを操作(終了や時間の変更)できなくなるという仕様です.専用機のタイムログにも同様に「一度設定すると変更できない(しにくい)」という特徴があります.次の2つの写真を比べてみると,前者にはスタートボタンがある一方で,後者にはボタンがありません.
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このような特徴が必要な理由としては,次のようなことがあります.例えば子どもに「1時間したらテレビゲームを止めましょう」と約束したとしても,その子どもは残り5分になると,タイマーのメモリを元の1時間に戻す,といったことが実際場面ではよく起こります.
そうなると,タイマーの意味はなくなってしまうので,タイマーの時間を自分で自由に都合の良いように操作してしまうような人に対しては,前述のように設定が変更できないような仕様が重要になってきます.

次に紹介するアプリは

UZUz

こちらはLotusの時間し設定範囲を拡大したものです.
Lotusが一周の円で60分の設定だったのに対し,UZでは最大10時間まで設定できます.円が渦のように10周するのでUZ(うず)という名前なのだそうです.

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LotusもUZも私の上司が開発したのですが,UZの開発のとき,私は少し反対意見を出しました.10時間もタイマーがあっても仕方ないんじゃないか,と考えたからです.
すると間髪入れず上司からおしかりを受けました.「飛行機乗るとき,どうするんだ?」といわれ,なるほどと思いました.自分の経験でも,海外に渡航するときには,いま日本と目的地の間のどの辺りにいるのかをモニタでチェックしてしまいます.同じようなことですよね.あとどれくらい座ってないといけないのか,何となく不安なわけです.

アプリには,Time Timerの公式アプリもあります.

Time Timer Time Timer

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このアプリはTime Timerという歴史と伝統のあるタイムエイドの公式アプリなのに,実はそれほど使い勝手が良くなかったんです.というのも,時間の設定をするのに別の設定画面に入ってダイヤル操作で時間を設定しなければなりませんでした.また.開始しても誰でも簡単に時間の設定を変更できてしまうというということもありました.
ただ,最近のアップデートで他のタイマーアプリにはない特徴が追加されました.

このような多くのビジュアルタイマーが1周1時間で時間を量化しているのに対し,Time Timer のCustum モードでは円1周あたりの時間を設定できるようになりました.具体的には,5分で1周といった設定ができるようになったわけです.

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実際にタイムエイドを使うような環境では,じつは1時間のタイマーをみっちり1時間使うということは少なく,10分とかその辺りの短い時間で使うことが多いのです.
そういう意味でも,1周10分のタイマーがあれば.そちらの方が現実的には使い勝手がよいということになります.

しかしこの便利な機能にはマイナス面もあります.
時間の感覚がつかみにくい人にとっては円の面積で自分の行動の折り合いを付けているわけですから,それが場合によって1周1時間だったり10分だったりしたら困るわけです.パニックの原因にもなるでしょう.

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ここでタイムエイドについて,いくつか注意点を書きたいと思います.

1)タイムエイドは大人が子どもを思い通りにコントロールするためのツールではない
2)タイムエイドを導入してもすぐに使えるわけではない
3)タイマーはスケジュールとの関係のなかで使わないと意味がない

1)タイムエイドは大人が子どもを思い通りにコントロールするためのツールではない

子どもにいうことをきかせたいからといって「はい,あと10分でゲーム止めてお勉強ね」「あと30分じっと座ってなさい」といったように,都合よくタイムエイドを使うことはよくありません.結果として,タイマー自体にネガティブな感情を持ってしまい,逆効果になります.

タイマーとは,時間を知るための物というよりはむしろ「社会生活の中で,自分の欲求と社会の中でとるべき行動との折り合いを付ける道具」と考えた方が良いのではないかと思います.

つまり,ずっと遊んでいたいけど,昼休みが終わったら教室に戻らないといけないといったように,自分の欲求と現実の制約のせめぎ合いの中で,このタイマーがゼロになったら教室に戻るといったような,けじめを付けるタイミングを眼で見てわかるようにしてくれる道具だということです.

このことをふまえると,タイマーは大人が子どもの行動をコントロールするために使うというよりはむしろ,いかに子どもが自分で自分の行動の折り合いを付けるかを助けるために使うのがよいのではないかと思います.

2)タイムエイドを導入してもすぐに使えるわけではない

「タイマーを買ったけど.使えない」「タイマーを見せて,時間になったのに○○するのを止めない」「タイマーを見せて,あとこれだけ我慢しようねと約束したのに,すぐにたってどこかに行ってしまった」という話を聞くことがあります.

よく考えればそれは当たり前のことです.時間の感覚をつかめない人にとっては,タイマーが時間を示しているということがわからない人だって当然多くいるわけです.

量で示して視覚化さえすれば時間の概念を獲得できるという考えは間違いです.
5分という言葉を知っていたとしても.5分という時間がどれくらいなのか,5分という時間の中で自分がどのように
行動すればいいのかわからないといいう場合は多くあります.

また,タイマーを使うのに向いていない環境にタイマーを導入して失敗するという話もよく聞きます.

オモチャやテレビのような気が惹かれる様な物がたくさんある環境,騒がしい環境のなかでタイマーを見せて,「これがなくなるまでお勉強しましょう」なんていっても,集中が続くわけがありません.誰だってそうだと思います.

タイマーを使い前にはタイマーが使えるような環境を整えることが大切です.

タイマーを使うにはルールを決めて,生活の中で常にタイマーがあるという経験を通じて,初めてつかえるようになるものです.

タイマーが実際に使われる場面としては
タイマーがゼロになったら
・嫌なことが終わる(楽しいことが始まる)
・楽しいことが終わる(嫌なことが始まる)
という2つの場面があります.

前者と後者が混在していれば,利用者の混乱の元になります.
また,後者の場面ばかりでタイマーを使うと,タイマー自体が嫌な物として認識されることになり,自分の行動の折り合いを付けるという使い方からはほど遠いものとなります.

上記の2場面で使うタイマーを分けてみたり,なるべく前者が多くなるように工夫することも重要でしょう.

3)タイマーはスケジュールとの関係のなかで使わないと意味がない

タイマーは任意のタイミングで使うことができます.だからといって,周囲の人間がそれぞれの都合でタイマーをつかっては,それは結局(1)の問題を引き起こしてしまいます.

社会生活の中で,見通しをもって,生活するためにスケジュールとともにタイマーを使う必要があるでしょう.
見通しがないままにタイマーで時間を示されても,結局このタイマーがゼロになればそのあとどうなるのかがわからなくなってしまいます.そうなるとその人の中でのタイマーの意味はなくなります.

このような観点を踏まえながら,はじめに紹介したアプリを活用すると,生活の困難をうまく減らすことができる野ではないでしょうか.

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