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私たちのラボでは環境を人間に合わせるための研究をしています

人間というものは融通が利く生き物です。「無理」ができます。そのため産業革命以降、機械でできない部分を人間が補うということが人間の役割になってきました。その結果、多くの問題が生じてきました。自分に合っていない姿勢で働く、自分に合っていない作業をする、など自分を環境に合わせるうちに、心身の健康に問題が生じます。ここでいう環境とは、物理環境だけではなく、社会環境も含みます。また、ここでいう健康の問題とは、身体的なものだけではなく心理的なものも含みます。これら問題を解決するひとつの考え方が「人を環境に合わせるのではなく、環境を人に合わせる」というものです。

 

ergonomics

 

環境を人に合わせるためには、人に影響する環境がどのようなものなのか、人への影響とはどのようなものなのか、どのようにすれば環境が人に合うのか、客観的に評価する必要があります。このようになにをどのように評価し、どのように変えていくのか、ということを考えるために学問があります。私は、「認知心理学」「人間工学」をバックグラウンドにして「環境を人に合わせる」ための研究を進めてきました。ただ、認知心理学や人間工学のメジャーな研究テーマを扱っているわけではありません。自分の研究分野を自分で名乗るとすれば「適応認知人間工学」かなと思っています。

適応認知人間工学 (Behavior Oriented Cognitive Ergonomics)

私の考える適応認知人間工学は、人間が実際環境において適応的に行動するなかでそれがうまくいかないと評価されるとき、それがなぜうまくいかないのか、どうすればうまくいくのかを調べ、工学的に支援するための研究分野です。もちろん、うまくいっていないことが前提条件になるわけではありません。人間がある環境のなかで活動したりコミュニティーに参加したりするといった状況において、より良い状態を目指そうとするものです。重視しているポイントは3つあります。

ひとつは人間の適応行動を対象にするということです。従来の認知心理学の研究分野では、制約された環境の中で、人間の認知・行動特性が調べられてきました。しかしながらこのような方法論では、条件統制により現象の因果関係が検討しやすくなる一方で、実際場面における人間の適応的な行動・認知特性を調べるのには不十分でした。また、近年の認知心理学の分野では、専門領域の細分化が進み「重箱の隅をつつく」ような社会的に必要性の低い研究が増えてきているという問題が指摘されています。そのため、私たちのラボでは実際行動場面において人間がどのように環境に対して適応的に行動するのかということに着目し、その認知行動特性について検討することを重視します。社会にはまだまだ多くの調べられるべき問題があります。適応認知人間工学の研究分野では、それら問題の背景にある人間の認知・行動特性について検討することで、問題の解決につながる成果を上げるとともに、実際場面での人間の認知行動特性についての知見を得ることで、学術(Science and Technology)にも貢献します。

もうひとつは問題解決を重視するということです。私たちのラボでは実際環境で生じる問題の解決につながることを研究テーマとします。私自身は特に障害のある人や高齢者の生活上の問題について、それを解決したり支援したるするための研究を心理学、人間工学、工学、教育学、社会学などの学際的な観点を踏まえて進めています。特定の方法論を用いる制約の中で扱える問題を選ぶのではなく、社会を観察したり未来を見据えるなかで実際に起こる/起こるであろう問題に対して、適切な研究方法論を選んで問題解決にアプローチすることを目指します。対象のニーズの分析やシーズの掘り起こし、また、そのニーズに対する支援効果の科学的な評価や検証を行うことで、エビデンスに基づいた問題解決を目指します。

最後に、人を環境に合わせるのではなく環境を人に合わせることを重視するということです。人は融通の利く生き物ですが、融通を利かせられるが故に、何かがうまくいかない際にはそれが人間の能力不足や努力不足に原因帰属されることがあります。実際の問題の解決には、人間に努力を強いるよりも、問題が生じないような工学的工夫やツールを利用することのほうが効果が高いと考えています。そのため、うちのラボでは、なぜうまくいかないのか?という「Whyの問い」だけではなく、どうすればうまくいくのか?という「Howの問い」をもつことを重視しています。

 

最近の研究テーマ

  • テクノロジーによる能力拡張のための知的・発達障害のある人の能力評価
  • 発達障害のある大学生のキャリア・就労支援
  • 高等学校における支援が必要な生徒への学習・就労支援
  • 認知症患者におけるテクノロジーを活用した支援
  • 組織のレジリエンスを重視した医療事故防止のためのエラーと防止策の評価
  • 在宅医療における使いやすい医療機器の評価
  • 認知的技能を獲得/行使するための環境条件

研究室とメンバーの研究テーマはこちら→“オカラボ